父へ ヴァイオリンを弾くことが父の趣味だった。父は音楽が好きだった。 子どものころ、しばしば僕は父のヴァイオリンの伴奏をさせられた。それはヘンデルとか、バッハとか、モーツァルトの作品だった。伴奏を弾くのは楽しかった。 僕が音楽の道を歩み始める時、父は反対した。 自分と同じ自然科学の道に進むことを望んだから。息子の将来を心配したから。 しかし、いつしか父はそれを許してくれた。理由はとうとう聞かないままだった。 父は還暦を過ぎて、間もなく、逝ってしまった。 この作品は、私小説です。 曲の最後に、生前、父がよく弾いていたヘンデルのヴァイオリンソナタ第４番第一楽章をそのまま使用した。
（初演時プログラムノートより） グループ「蒼」第10回演奏会にて初演（1995） Vln.七沢清貴、武藤宏樹　Vla.武田信夫　 Vlc.山岸宣公　Pf.藪本秀子